採用の合否は、求職者に決めさせるという会社の話
「うちでは採用の合否は応募者に決めてもらっている」とある経営者が言った。
どういうことですか?
「面接ってあまり意味がないと思うんだよ。当たり前だけど応募者は良く見られたいから、長所を大きくみせたり、短所を隠したりする。時には嘘だってつくよね。それを10分20分で見抜くことなんて不可能だ。」
たしかにそうですね
「だからうちでは、応募者に面接をしてもらっている。」
私が首を傾げると、その経営者はにやりとしながらこう答えた。
「面接ではあなたはどういう経歴ですか、どんな人ですが、どういうことができますか、と聞くだろ?
うちでは逆なんだ。この会社がどういうことをしているか、理念や沿革・ビジョン・業績はもちろん、どんな人間が働いていて、どんな苦労があって、今後の課題や求める人材像など隅々まで話すんだよ。」
なるほど。かなり踏み込んだ会社説明を行うんですね。
「そう。そして最後に『興味がございましたらご連絡ください』ってね。連絡があったら採用している。」
連絡してきた人間を全員採用するんですか?
「そうだよ、応募者が熟考してくれたんだ。『自分はこの会社で働いていけるのか、この会社に働く価値があるのか』ってね。その判断を信じるよ。」
それで・・・・大丈夫なんですか?
「うちに入ってきてくれた人はみんな優秀だし、この方法を取り入れてから4年間で13名採用を行っているが離職者は1名もでていないよ。」
腑に落ちていない表情の私に、彼はこの方法のポイントは4つあると言った。
1.開示できる情報はすべて開示をする。
- 業績
- 事業計画
- 雇用条件
- 人事評価基準
彼は特に人事評価基準を説明することが大切だという。
2.従事する予定の業務に関わる事柄を重点的に説明をする。
- 業務内容
- 必要となるスキル
- 上司の性格
- 従業員目線でのメリット・デメリット
- 新入社員(応募者)に期待していること
デメリットはどんな小さなことでも伝えれば伝えるほどいいと言う。
最初に聞いていれば納得してもらえるが、知らないければ不満になる。納得して働いてもらうってことが、長く働いてもらう上で最も大切だと語る。
3.応募者が客観的に自己評価をできる仕組みを用意する。
- 適正診断
- スキル評価テスト
例えば「エクセルができる」と答える人でも、簡単な関数を組むことができる人間からマクロを組むことができる人間まで幅は広い。そういった曖昧な評価ではなく、具体的な評価値を出すためのテストを行い、実業務に必要なスキルと比較をさせるという。
「これらのテストは、応募者に自己評価してもらうために行うんだ。決して選定のためではない。できる人はもちろん、出来る様になる自信のある人、努力する覚悟がある人も掬い取れるようにしなければいけないよ。」
4.ビジョンを伝える。
「私が何を考えているか、今後会社をどうしたいかということ伝えなければいけない。小さな会社だから、私の決断ひとつひとつで大きく振り回してしまうこともある。そういった時に着いてきてもらうには、私の考えを理解してもらうしかないからね。」
なるほど。
面接で情報を引き出そうとしても限界があるが、情報を提供することは可能だ。
その上で応募者が自己判断できる仕組みがあれば、大きなミスにはつながりにくい。また十分な説明を行っているのでミスマッチが無くなり、従業員満足度が上がる。
確かに理に適っている。
「ははは、君はいつも難しく考えるなぁ。もっと単純だよ。うちに入りたいって言ってくれてるんだ。いい人材で間違いないよ」と意地悪そうに彼は笑った。
「あと一つ忘れていたよ」
働くに足る企業であること。
「僕たちは選ぶ側ではなく選ばれる側なんだ。選ばれるにふさわしい企業でなければならないと肝に銘じておくことだね。」